自分では満足のいくデザインに仕上がり、クライアントの反応も上々だったのに、ビジネスの成果は散々——そんな経験をしたデザイナーは多い。Webデザインから広告運用の世界に入ったデザイナーが、初仕事でスキルを駆使した渾身のクリエイティブを作ったのに、素材サイトの画像をただ切り取ったようなクリエイティブに成果で及ばなかった、という話もある。
敗因は、ターゲットのニーズやウォンツを考えず、デザインを整えることばかり意識したことだ。欠けていたのは「マーケティング視点」である。これを身につけると、デザイナーもよりビジネスに貢献する提案や制作ができる。本稿では、成果につながるクリエイティブを作るためにデザイナーも持っておきたい、3つのマーケティング視点を紹介する。
マーケ視点のないデザインのデメリット
マーケティング視点のないデザインとは、たとえば「スタイリッシュにするため文字を小さくした」「クライアントの要望だからロゴを大きくした」「海外の最新トレンドだから取り入れた」といったものだ。いずれもビジネス課題や、デザインを見る顧客が考慮されていない。マーケティング視点がないとデザインの根拠が弱くなり、先のような失敗を招きかねない。ビジネス課題の解決を求められる場面では説得力に欠けて苦労する。実際、こうした根拠では「なぜそうするのか」という問いに答えるのは難しい。
目的・戦略から考える
同じ商品の広告でも、ビジネスのフェーズや目標とする数字によってクリエイティブは変わる。発売間もなく月100件の注文を目指す場合と、軌道に乗って月10,000件を目指す場合とでは、商品の見せ方や必要なリーチ数が違う。ターゲティングを絞り、訴求もターゲット像に合わせると、一般にコンバージョン率は上がる。だが絞り込みによって一部の人にしか関係ない内容になると、規模拡大を目指す場面では逆効果になる。目標達成の観点では、必要に応じてターゲティングを広げ、訴求を抽象化すべき場面もある。
絞り込みの発想では「働く30代の母親」でも、拡大の発想では「アクティブでいたいすべての人」にすべきかもしれず、訴求も適宜抽象化する。もちろん絞り込みが悪いわけではなく、限られた予算で最大限費用対効果を高めたい状況では、ターゲティングや訴求を絞って見込み客に近い人へ優先的にリーチするのが有効だ。どこまで絞るか広げるかは、フェーズや数字のほか、ブランドの立ち位置や商品設計にも大きく左右され、デザインだけで完結しない。だが見込み客の目に触れるデザインに目標とのギャップを生じさせないためにも、デザイナーの想像だけで作るわけにはいかない。デザイナーもビジネス目標や広告の目的を把握し、どんなコミュニケーションなら目標を達成できるかから逆算して制作することが大切だ。
ターゲットから考える
配信の目的が明確なら、ターゲットも自ずと決まる。ただ、ターゲットから考えるといっても「女性向けだから色はピンクで丸みを」のようにデザインを起点にするとマーケティング視点を失う。広告がターゲットに受け入れられるために、どのメディアに、どんなメッセージを、どんな表現で伝えるべきか——そこから考える。
フリマアプリの『メルカリ』は、非スマホネイティブ世代である40代以上を獲得するために、折り込みチラシというメディアを選び、元のイメージとは全く異なるチラシ特有のデザインを取り入れて、大きな反響を得た。名前は聞いたことがあるが何が売られているか分からない非スマホネイティブ世代には折り込みチラシが有効で、「メルカリ×折り込みチラシ」の違和感が家庭内での会話のフックになる——「メルカリ知らないの?アプリ入れてあげるよ」といった親子のやり取りが起きるかもしれない。ターゲットから考えるからこそ、彼らの懐に自然に潜り込むクリエイティブを発想できる。これを「イケてるフリマアプリ」として折り込みチラシにしても、ここまでの効果はなかっただろう。
商品のポジショニングから考える
牛丼屋の広告を作るなら、何から考え始めるべきか。「美味しそう・お得そう」や「食欲を刺激する赤や橙を基調に」といった具体的な表現からではなく、まずポジショニングから考える。ポジショニングは、ビジネスで優位に立つために自社をどう認識してもらうかの戦略と言い換えられる。牛丼屋でいえば、2社の商品は機能だけ見れば同じ牛丼だが、ポジショニングが違い、その差が広告に表れる。一方は若い男性が牛丼をかき込む描写で、一人向け・安い・早い・美味いという印象。もう一方は家族で来店してそれぞれ好みのメニューを頼んだり、女性がテイクアウトを楽しむ描写だ。商品を通して誰のどんな課題を解決するのか、どう認識してもらいたいのか——ポジショニングが違えば、同じ商品でも全く違う広告になる。
この差を認識しないまま具体的な表現から考えると、自社のポジショニングとズレてしまう。まず「どんな人に何を伝える広告か」を確認し、次に「どんな表現で伝えると効果的か」の順で検討するとよい。こうした考え方はマーケティングのフレームワークで学べる。フレームワークは万能ではなく状況により使えたり使えなかったりするが、頭に入れておくと必要な場面で思い浮かべられる。担当案件を思い浮かべながら一通り目を通すのもおすすめだ。
デザイナーはマーケに踏み込むのにうってつけ
「Webデザイナーもマーケティング視点を持つべきだ」。Webデザイナーとしてある程度長く活動していれば、一度は耳にする言葉だろう。運用型広告はマーケティングの一部で、バナーやランディングページといったWebデザイナーの業務と親和性が高い。だからこそ、デザイナーがマーケティングに踏み込むのにうってつけの領域だ。制作ツールや最新トレンドに熱量を持つことはデザイナーにとって大切だが、マーケティング課題の解決を求められる場面では、それだけでは太刀打ちが難しいこともある。本稿で取り上げたようなマーケティング視点が有効な場合もあるのだ。






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